10年前、森で若い異国の旅人が矢傷を負い行き倒れていたと猟師が修道院へ運び込んだ。


修道士達は医術の心得を持つため、旅人が歩けるまでと預かることとなり、私は初めて会う異国のの人に食事を運ぶ仕事を任された。


毎日顔を合わすうちに気心が知れ、時にはシスター達の目を盗んでは旅人の部屋に忍び込み、外の世界の話をせがんだ。

だが、1月も経たずに重症と言われた旅人は旅が続けれるほどに回復し、修道院を去ることになった。


別れの日の前夜、最後の挨拶に行くと、私の境遇を知った旅人は不憫に思ったのか一緒に行かないかと誘ってくれた。


だが、当時の私には修道院が世界の全てであったし、18になった時に立派な淑女となり、父王へお会いすることしか頭になかった。


男は残念そうに、

「籠の鳥は籠から出ることを恐れ、飛びたてなくなります。どうぞ期を逃されませんよう」

そう忠告すると隣国へ向かう森の奥へと消えていった。