しかしもちろん反論なんてできず、わたしはおとなしく柊さんについて行くことしかできなかった。

「それにしても、凛ちゃん変わってるよね。」

「はい?」

「いっつも思ってたけど、なんか、すごい前向き。」

「本当ですか?わたし、ポジティブなのかなあ。」

ふふっと笑う。

「それに、俺ら見ても怖がらないし。」

「すごい怖いですよ!」

「うーん、そう見えない。」

「いや本当に怖いんですって〜!」

「見えない見えない。」

「もお、中島、柊さん!」

でも確かに、今こうやって柊さんと話していると、いつもの『中島さん』のような気がしてくる。

「それにさ、」

柊さんが玄関とは反対方向へ行っているのに首をつっこむことができないわたしは彼の次の言葉を待つ、

「凛ちゃんといると自信なくなる…。」

「え?」

自信?
なんの?

「凛ちゃん。」

「はい…、っ!」

いきなり至近距離に迫ってきた柊さんに、わたしは後ずさりする。背中にトン、と当たるのは冷たい壁。

柊さんの恐ろしく整った顔の奥で光る小枝色の瞳は何を考えているのかわからない。

「俺を見て、なんとも思わないの?」

柊さんの息が額にかかる。

体が凍って動かない。

動かない。

「…。」

自分の息が屈み込んだ柊さんの前髪に当たるのがいやだ。

「はあ…。」

なぜだか溜息を吐きながら離れる柊さんに震えるように体の力を抜きながら、わたしは心を落ち着かせようと咳払いをするけど、声が出てこない。

「なんか、もっと自信喪失しちゃった。」

1、2、3…

微笑みを顔の筋肉で作り出す。

「えっ?あの、ごめんなさい?」

「ふふっ、もういいよ。」