Darkest White



家に帰ればお酒の匂いが漂ってくる。


お母さんがビールに手を伸ばし始めたのは、北風が少し冷たくなってきた頃。



「お母さん…給食の、」

「仕事の邪魔になるから向こう行ってて。」



リビングにのソファに突っ伏すお母さんにそれ以上に何も言えないわたしは、一人で部屋にこもっていることが多くなった。



遠足の前日。

遠足代を払っていないお母さんのことがばれた。


職員室に呼び出されて教室に戻れば、いきなり黒板消しが投げつけられた。それがきっと初めての生徒からの暴力だった。


「きたねえ!金も払えねえ奴がくんなよ!」


リーダー的な存在の男子生徒の声に、罵倒やあざ笑いが飛び交った。

一緒に笑っている友美ちゃんを見て、初めてみんなの前で泣いた。


「あーあ。出た出た。泣くやつ。どうせお前の母ちゃんも給食代払えないからそうやって土下座でもしたんじゃないの?」


上から誰かの水筒の水がかけられたのを最後に、わたしは教室を飛び出した。走っても走っても足りなくて、塩辛い涙をこぼしながら、学校から逃げた。



走った。

逃げて逃げて逃げた。



やっと家の前までたどり着いた時に、お母さんの後ろ姿が見えた。お仕事のはずなのにそこにいるお母さんに驚きつつも、早くその温もりに抱きしめられたくて泣きつこうとしたその時…



お母さんの腕に知らない男の人の腕が巻き付けられた。

そこで初めて知らない男性が視界に映り込んできた。


楽しそうに笑いあう二人。


わたしの前では見せない心の底から嬉しそうなお母さんの姿に、足が竦んだ。




その男の人の髪の毛は金色だった。




二人はそのままもつれ合うように車に乗って、わたしを一人残して去っていった。




ーわたし、お母さんにも、置いて行かれたんだ。