その日を境に、わたしの地道に這い上がってきた噂に火がついた。
『七瀬凛のお母さんは田村友美ちゃんのお母さんをいじめている』
そんなはずないのに。
あんなに優しいお母さんなのにっ…!
教室に入れば、少しだけ高まるみんなの熱。ターゲットがやってきた!そんなわくわくが伝わってくる。
「凛ちゃんって本当ひどいよねー。」
「友美ちゃんがかわいそう。」
最初は精一杯否定した。お母さんはそんな人じゃない。どうしてみんなお母さんのことを悪く言うの?そんなの嘘だよ、って。
なのにっ…わたしを信じてくれる人は、誰も、いなかった。
去年友美ちゃんと喧嘩したのがいけなかったの?
鉛筆を素直に貸していればよかったの?
全部…わたしのせいなの?
「凛ちゃんどいて。」
「邪魔。」
「なんか汚い。」
「臭い。」
周りのみんなの言葉は徐々にエスカレートしていった。
「ブス。」
「学校来ないで。」
「給食代も払っていないようなお母さん、捨てちゃえばいいのに。」
机にあるものが消える。
上履きが捨てられる。
画鋲が落ちてる。
大人はどうせ子供のいざこざだろ、なんて気にしないかもしれないけれど、子供のいじめこそが本当に苦しくて、残酷なんだ。
真っ直ぐにぶつかってくる嫌悪と優越感に浸った感情。それが刃みたいに、ためらいもなく刺さって来るんだ。
幼い心をズタズタに引き裂かれて、わたしに残ったのはなんだったんだろう。
「凛ちゃんなんていなくなればいいのに。」



