冬になるにつれて、笹原さんが家にいることは以前にも増して多くなった。そしてまるでそれに比例するように、リビングのテーブルに積み重ねられたお母さんの仕事のファイルの量も増えていった。
「お母さん、今日の宿題ね…」
「ごめん、仕事の資料まとめないといけないから、後でね。」
前まではきちんと結んでいたお母さんの綺麗な髪も、いつの間にかだらしなく肩にたれるようになっていた。
「凛ちゃん、代わりに僕が見てあげようー」
「いい。」
笹原さんのことを一方的に避け続けても、一度も嫌な顔をしない彼に悔しい思いを抱いていた。
どうしてお母さんの隣にいるのがわたしじゃなくて笹原さんなの。
どうしてわたしのことを見てくれないの。
前みたいにトランプしようよ。お絵かきしようよ。遊園地行こうよ…!
だけどその言葉は全て飲み込んで、わたしは子供なりに頑張っていた。
春になると、あの子からラブレターをもらった、とか、なんとか君が好き、なんていう新しい風が吹いていた。
「…凛ちゃんのお母さん一回も保護者会にこないんだって…。」
「知ってる。パパが言ってた。凛ちゃんって、かわいそうなかてい?の子なんだって。パパいないらしいよ…」
そしてそんな風に含まれていたのはわたしに対しての好奇の視線。みんなと違うことに敏感な小学生の間で、わたしの変な噂が徐々に知れ渡っていくのに、そう時間はかからなかった。



