その日から、笹原さんはよく家に遊びに来るようになった。
ここはわたしとお母さんが二人でずっと暮らしていた家なのに。
一緒にトランプしたり、料理を作ったり、二人でお絵かきをしたりした、大好きな場所だったのに。
まるで当たり前みたいにソファにいる笹原さんが憎くて、劣等感が募っていった。
「笹原さんはオムライスが好きなんだって。」
お母さんが鼻歌交じりにそう言っていた。手元には赤いケチャップを持っている。
「…わたしは嫌い。」
「あら、どうして?」
お母さんのちょっとびっくりしたような顔が台所のカウンター越しに見えた。
「お母さん今までオムライスなんて作らなかったでしょ。」
「そうだったかしら…和食が好きだからね。」
「なんで作るの。」
きっとこの時期からだった。友美ちゃんと喧嘩して、わたしの学校生活へ支障が出始めていたのは。
「笹原さんだって食べたいって言ってるし、」
「やだ!!」
「どうしてそんなこと言うの?」
少しだけ傷ついたお母さんの顔がどうしてかすごく嫌だった。
わたしの好きなそぼろ丼は最近作ってくれないのに。どうしてオムライスなんて…!
きっと、子供なりに傷ついていた。
お母さんを横取りされた気持ちで寂しかった。
あの時、『もっと構って。大好きだよ。お母さん、大好きだよ』って、気持ち伝えていれば、不幸せのどん底に落とされなくても済んだのかな…



