笹原さんと行った東公園にはたくさいの思い出がありすぎて、思わずまた涙腺を刺激されそうになった。
いじめにあっていた時逃げた先も、辛い時に隠れた先も、全部この公園だった。小さい頃のわたしにとって、東公園はわたしが知っている知識の中で、家から一番遠い場所だった。だからここへ来ると、まるで世界の果てにきたような気持ちになった。
だからだろうか…怖くて悲しいような時…わたしはいつもこの公園へ逃げていた。
幼い子供なりの現実逃避だったのかもしれない。
誰もこない、誰も知らない場所。
でも…これ以上先へ逃げれなかったのは…きっと、まだ、家に帰りたかったから。
だけど…
だけど…
……………ただ一人だけ。
「懐かしいなあ。」
…わたしのことを見放さないで、懲りずに毎回迎えに来てくれた人がいた。
ー---…
「今日はね、凛に会ってもらいたいの、笹原さんに。」
お母さんのよく口にする『笹原さん』。
それは時に嬉しそうに、そして時に悲しそうにお母さんの口から放たれた。
「……やだ。」
「そんなこと言わないで…ね?良い子にしてれば、後でケーキ買ってあげる。」
「抹茶ケーキ…?」
「もお、凛ったら、しょうがないわね。抹茶ケーキ。」
「………じゃあいいよ。」
わたしは、『笹原さん』と言う言葉が嫌いだった。大嫌いだった。
わたしが宿題をしている時だって、ご飯を食べているときだって、電話がかかってきたらすぐにお母さんは答えないといけない。それは、『仕事の笹原さん』、といつも言っている。
お仕事に行けば、その『笹原さん』と言う人がいて、その人がお母さんとわたしの時間を壊しているんだ、って、去年の春ランドセルを背負い始めたばかりのわたしは考えていた。



