それは初雪だった。


「クシュン!」

「風邪引くんじゃねえぞ。」


首元に感じるぬくもりに顔を上げれば、さっきまで光の首に巻かれていた赤いマフラーが、わたしそっと包み込んでいる。

光の匂いがする…

くすぐったくなるような、甘い、彼の匂い。

香水の香りだけじゃない。光特有の、ぽかぽかするお日様みたいな、優しい匂い。

「引かないし。」

照れ隠しのようにキッと顔を上げれば、

「そうだな。バカは風邪引かないって言うしな。」


と言ってハハっと笑う彼がいた。

ひらひらと舞う雪の粉を背景に、赤い刺繍の入った黒のコートを着た彼は、切なくなるほどわたしの恋心を掻き乱す。

黒の奥に見える血色のシャツは、遠い記憶の中の、月夜の彼の服装と同じだった。まだあの生ぬるい、生きているのかわからないようなコンビニで働いていた頃の、彼の服装。

「光…、今日も学校行かないの?」

隣を歩く彼に視線を向ければ、目尻を少しだけ下げる彼。

「…ああ。ちょっと、な。」

「…お仕事頑張ってね!」

「お、おう。」


少しだけ恥ずかしそうにそっぽを向く彼を、わたしはしっかりと記憶に刻む。