「……キモい。」


黒板に書かれる数式をぼんやりと見ていたわたしに届いたその冷めた声は、きっと隣の席から発せられたもの。


「………ふふっ。」

「うぜえ。」


あ…また嫌われたな。

やっと顔を上げて横を向けば、金色の髪の間から覗く深海色の瞳と視線が交わる。そう、ただの青い目じゃなくて、面倒くさそうに細められた瞳。

綺麗なのにもったいないなあ。

そんな呑気なわたしにもう一度、


「あんたキモいから。」


と、まあ侮辱されるわけです。

別に思い当たることがないわけではない。

早朝から授業に集中しているそぶりを見せながらもニヤけていたし、ノートを見ながらクスって笑ったり。まあ…隣の席の彼女からしてみれば、授業妨害の何者でもないわけである。


「知ってるしー。」

「チッ。」


今日はいつもと立場が逆転。彼女がかまちょになっているではないか。なかなかの貴重な時間でもあったりする。

なぜかって?それは、今のわたしの日々は恵へのアタックの毎日だからだ。

そして…光のエモーショナルブレイクダウンがあってからは(初めて英語の授業で聞いた単語)クラスのみんなに好かれるとか、浮かない努力とかは、もう諦めていた。そもそも光と知り合いな時点でそれが不可能なことに気づいてしまった、というのもあるが…。


「はあ…男?」

「ブッ!」


思わずむせ込んだことで教室じゅうの視線が集まる。


「…すいません。」


小さく謝ってもう一度彼女に向き直る。


「は?」

「は?じゃねーよ。」


恵は眉を片方あげる。


「男に決まってんでしょ、あんた見てればわかるわ。」

「いや……、」


いやいやいや。

そんなに明らかだったかな…。