しばらくして落ち着いたのか、光は一言、ごめん、と謝ってわたしを離そうとした。


だけどわたしは離してやらなかった。


光の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きつけば、心なしか困惑したような光の声が聞こえてきた。


「…、凛?」

「辛いんでしょ…?…光前言ってたじゃん、辛いって……。」


ビクッと光の肩が震えた。

否定しないことを肯定ととり、くぐもった声でわたしはなおも言う、


「苦しい時に一番してもらいたかったのは…ぎゅって誰かに抱きしめてもらうことだったの……。だから……」


わたしは甘い、だけどどこか酸っぱい青りんごの香りを思い出して、胸の奥をえぐられたような気持ちになる。


「離してあげない。」

「……やべえ…。」


光の小さな声が聞こえて顔を上げる。

するとそこにはいつもに増して色っぽい光の顔があって、思わず目を逸らした。

汗で濡れた顔はどこか大人の色気を醸し出していて、涼やかな瞳に鳥肌が立つ。

その顔…反則。


「……無自覚。」


光のつぶやきに首をかしげれば、スッと手が伸びてきてわたしの髪を掬った。

くすぐったくて思わず肩をすくめる。


「……手放せねえじゃん。」


光の言葉に、ん?と思って目線をもう一度戻せば、なぜだか口角をあげて、クスッと笑う光がいた。


別にバカにしているような笑い方じゃない。それは純粋な、光の笑顔だった。


「ははっ。」


目をキュッと細め、口を開けて笑う光はどんな時よりもキラキラしてて、思わずほおを赤らめた。


その光は、写真の中の彼と同じ顔をしていた。


あなたのその笑顔をずっと見ていたい。


やっぱりこれは恋なんだな…そう思ってわたしも光につられてふふっと笑った。