電話がかかってきたのは、光を一方的に避け始めてから二日後の真夜中のことだった。


『…凛ちゃん?』


スマホから届くその声を聞いた時、わたしは部屋の床に座り込んでしまった。胸の奥がチクチクして、怖くて、それでいてもっと聞いていたかった。


涙が流れない人間がここにいる。


涙をぬぐう動作さえできないこのもどかしさ。



いっそ泣ければ全て泡になるかもしれないのに。



「……っ、」


『久しぶりだな。』



優しいその声は、わたし心をどんどんと暖かく包み込んでくれる。



「…笹原、さん…。」


『オランダにホームステイするなんて聞いてなかったよ。』


小さく笑う音が、携帯越しでも聞こえる。


『凛ちゃんは昔から自由人だったからね。僕はさみしいなあ、凛ちゃんに会えなくて。』


ごめんなさい…ごめんなさい…

謝罪したってわたしたちの罪は償われない。それでも心の中で謝っておけば、神様がどこかで見ていてくれて、この罪を軽くしてくれるような、そんな気がしていた。


『でも、凛ちゃんの夢は全力で応援するって決めてるから。ははっ、参っちゃうなあ。』


「…っ、へへっ。」


乾いた笑い声を出してみる。


『大変じゃないか?オランダなんて、初の外国だろう。』


「ううん…全然、大丈夫だよ。」


『そっか…でも最後に会えなかったのがやっぱり寂しい。』