『じゃあ、そんな待ちぼうけの柚希ちゃんに、お店から何か1杯サービスするよ』
『良いんですか?』
『実はね、今日は私からのクリスマスプレゼントとして、他のお客さんにも、1杯サービスしてるんだ…で、何が良いかな?何でもリクエスト通りお作りしますよ?』

この後、午後8時から近くのレストランでディナーの予約が入っているけれど、隆弘はまだ来なそうだし、時間的にも、もう一杯くらい問題なさそうだった。

『それなら、ロイヤルミルクティをいただこうかな…出来れば、うんと甘くして』
『OK、お望みのままにお作りしましょう』

…と、そこでちょうどテーブルの上に置いてあったスマートフォンが、わずかな振動と共に、光を放つ。
ディスプレイが表になっていたので、画面に【隆弘】の名前が表示される。

『すぐ出てあげたら良い。ここで良かったら、どうぞ気にしないで』

マスターはにっこり微笑んでそう言うと、気を利かせて、カウンターの内側に戻っていく。

店内の他の客も、それぞれ少し離れた席に座っていて、大きな声で話さなければ、迷惑にはならないだろう。

お言葉に甘えて、スマホを手にし、その場で着信をスライドさせる。