少し気分が晴れたその日の夜、人事部の杉本先輩と、飲みに行く約束をしていた。
よく利用している、会社近くの居酒屋で、待ち合わせだ。
居酒屋に入ると、カウンターとテーブル席があって、そのカウンターに知り合いを見つけた。

 「ひろにぃ?久し振りー。」
ひろにぃは、6才年の離れた姉の、旦那さんだ。
実家に居た頃、近所に住んでいたので、幼なじみの兄のような存在だ。
 
 そのひろにぃに、「おお、噂をすればじゃん。」と言われた。

 「どうせ、ろくでもない噂でしょー。」と言い返したところで、ひろにぃの隣に座っている人に気がついた。

 げっ!

 「今日、コイツに啖呵切ったんだろ?」

そう、隣に居たのは、今、一番会いたくはない、佐々木課長だった。

 驚いて、こっちを向いた課長と目があってしまい、軽く会釈した。

「ひろにぃと佐々木課長って知り合いなの?」
すぐに、ひろにぃに視線を移した。
「ああ、従兄弟だよ。あれ?小学生の頃・・」
「浩人(ヒロト)、それ以上言うな!」
課長が、ひろにぃの言葉を遮った。

 ?ん?
小学生の頃?
何かあったっけ?
でも、課長をチラッと見ると、機嫌が悪い顔をしていて、聞き出すことは出来そうになかった。
少し引っかかったものの、約束の時間も迫っていたので、「じゃあ、待ち合わせの時間なんで…」と言って、テーブル席の方へ向かった。