気づくとあたりは真っ暗になっていた。どれだけ走ったんだろう。

胸が苦しい。

助けて…。

「あれ?どうしたの?こんなところで、迷子?」

いきなり呼びかけられた男性の声。

顔を上げると20歳ぐらいの男性が微笑みながら首を傾げていた。

「いえ、大丈夫です。少し気分転換に外の空気を吸おうと思って…」
…て、ここどこだ……。やばい、わからない。

慌てている私を見て、男の人が尋ねた。
「えーと、やっぱわからない?」

心配そうな顔で見つめて来る男性。

その顔は電灯の灯りに照らされて、とても綺麗だった。

その姿に思わず見惚れてしまう。

「おーいおーい聞こえてる?」

「あっはい!…やっぱり迷子…です」

そう言うと男性は少し戸惑いながらも、私に尋ねた。

「名前、言える?」

教えたら、家に返されるのかな?そしたら学校に連絡行くよね…また地獄に戻らなければいけないのかな。

戸惑っている私の顔を男性はのぞき込んだ。

返事しなきゃ…。

口を開こうとしたら、男性が先に言葉を発した。

「言いたく…ない?」

私が言いたかった言葉。

男性が先に言葉を発してくれた。

「はい…」

男性は少し笑いながら

「そっか…僕の名前は塔橋 瑠依だよ。今は…大学二年生なんだ。君は高校生だよね?」