「羨ましいよ、元。俺なら、明日美ちゃんみたいな可愛い妹がいたら、どこにでも連れて歩きたくなると思うなぁ」

遼也先輩が、ドキッてなるようなことを言ってくれた。それなのに、元ときたら

「はぁ?こいつを連れて歩く?冗談じゃねーよ。絶対に嫌だね。恥ずかしいだろ」

「恥ずかしいってなによ!恥ずかしいのはこっちですからね!」
頭にきて元のコートを掴もうと手を伸ばした。その手を「まあまあ」と言って遼也先輩が掴んで止める。

わっ!


手を掴まれちゃった!


掴まれた手をまじまじと眺めてみた。

遼也先輩の長い指先が私の手の甲に重なっている。


こんなことがあるなんて!

今は、とりあえず手を伸ばさせた元には感謝したかった。

ありがとう、元。たまには役に立つじゃん。

「元、言い過ぎ。いつもこんななの?大変だね、明日美ちゃん」
遼也先輩は、私の手を握ったまま、まるで手を繋ぐみたいに手を握り変えた。

そのまま下ろされた手を見たあと、遼也先輩を見上げる。

私に、にっこり笑いかけた後で遼也先輩は私の手をそっと離した。

今のって、何だったんだろう。

胸をドキドキさせて私は、遼也先輩から目を逸らした。