午後、お昼を食べたあと更衣室の椅子に座りながら社長がくれた塗り薬を腕に塗っていた。
ミミズ腫れはいつの間にか治っていて、僅かに赤い跡が残っているだけ。
自分でやってしまった事だけど、時間が経過して冷静になるとなんでこんな事をしてしまったんだろうって後悔。
塗り終わった薬をロッカーにしまい、鞄からスマホを取り出す。
指紋認証でロックを解除すると着信履歴に1件だけ不在着信が残っている。
(あれ…知らない番号だ…)
見た覚えのない番号。間違い電話かもしれない。基本的には知らない番号は出ない。
履歴を削除してネットニュースをみる。事前に購入していたミルクティーを飲みながら芸能ニュースを見ていると、更衣室に誰かが入って来た。
「あ、村瀬さん…」
「あれ、関さん?」
関さんは数日前に志田さんに休みの事で怒られていた人。どうしたんだろう。今日は昨日を含めて2日間休みだったはず。
「どうかしましたか?」
「あ、ええ…」
生気のない返事。私の顔を見ないように更衣室に入るとロッカーを開ける。持っていた大きめな鞄の中にロッカーの中身を手早く次々に入れていく。
不思議な行動にスマホから手を離す。直感的に嫌な事が浮かび彼女の名前を呼ぶとビクリと身体が飛び跳ねた。
「関さん?」
「ご、ごめんね。辞めることにしたの」
「え…」
「この前の事で志田さんに心底幻滅しちゃって、あんな人と一緒なんて働けない。声を聞くのも顔を見るのも気持ち悪いって思うようになって…ご、ごめんね」
(やっぱり…そう、なんだ)
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。辞めることになったら、気持ちが楽になったの。会いたくないからこの時間に来たの」
片付け終わったロッカーを閉めて鞄を肩にかける。更衣室を出て行こうとする関さんの後を追う。
「関さん!」
「村瀬さん、これは清掃部の先輩として言っておくけど、これからの事を考えた方がいいわ。あんな人に責められて自分が壊れてしまう前に。じゃあ元気でね。さようなら」
ドアがバタンと閉められる。


