「ごめんね。ちょっと、見せて」
「あっ」
腕のボタンを全部外して袖を捲り上げる。自分でつけた傷が露わになり、今更罪悪感が襲う。
「これ、誰かに引っ掻かれた?ミミズ腫れになってるね」
「これは…その…ね、猫です!」
「猫?寮生なのに?」
「え、あ…そ、そう…でし、た…でも、これは…猫で…」
あからさまな嘘に失笑された。鼻に抜けるような息を吐いたあと、ポケットから何かを取り出した。
「まぁ、随分と乱暴な子猫さんだね。俺の家にも猫がいるから分かるよ。ちょうど今朝も引っ掻かれてさ、薬持ってて良かった」
「…あ」
オレンジ色の蓋の塗り薬。それを手に取り、私の腕に塗っていく。細長い指がまるで壊れ物を扱うように触れた。
「…って、塗りながら思ったけど、俺が手で塗ったらばい菌がはいるかな?ごめん、つい…ほっとけなくて」
「だ、大丈夫です…たぶん…」
「そ、そうかな?もし、おかしくなったら言ってね。大至急で病院に連れていくから」
そう言いつつも塗る手はやめない。どこか楽しそうに笑みを浮かべたまま。
胸は当たり前のごとくドキドキしている。きっと、手首を掴んでいる社長は私が不純にもドキドキしているって気付いているだろう。
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