18時30分といえば、日勤のスタッフは退勤して残りは遅番のスタッフが多い。
そのため、この時間、従業員の通路であるバックヤードは人通りが少ない。
呆然とゆっくりとした足取りで歩いていれば、曲がり角から話し声が聞こえて来た。
聞き覚えのある声に脚を止める。いけないと思いつつ耳を済ますと志田さんと主任だ。
まだ帰ってなかったんだ。私が更衣室で桜を待っていた時、2人で帰ったのに。
なんとなく出て行きにくい雰囲気。壁に寄り掛かり様子を伺うと2人の会話が静まり返ったバックヤードによく響く。
「ねぇ、主任。どんな理由があろうと土日の突然の休みを、了承するなんて間違っていると思うわ」
「ええ…そうよね」
「そうに決まっているわよ。それを私に言わないのもおかしいと思わない?だって、私は主任より清掃部の経歴が長いのよ?仕事だって、私が新入りに教えているのに、感謝と先輩を敬う気持ちがないの、年功序列って言葉を知らないのかしら」
腕を組み、口を曲げながら言う志田さんに主任は「そうですね」と頷く。
「だいたいあの人はもとからムカつくのよ。口数少ないし、気持ち悪いのよ。私が誘った飲み会にも来ないし、愛想もない。早くやめてほしいわ。明後日から無視して仕事を振るのやめない?そうすればきっと、辞めてくれるわよ。黙って言う事を全部聞く駒が欲しいの、勝手に行動する駒なんて要らないわよね?主任」
「そうね。志田さんが言うことは正しいわ」
「でしょ?わたし、あの人大嫌い。掃除しか出来ないお馬鹿さんだもの。はははっ!」
「………」
(……はぁっ…最低だわ)
人格否定の心無い言葉に呆れてくる。
なんてタイミングの悪い場面に遭遇しちゃったんだろう。ついてない。
お腹の奥がムカムカしてきて、胸の奥までも霞が掛かったようにモヤモヤして来た。
壁に額を当て、ため息をはく。手を握りしめ自分の太ももを数回叩いた。
「…はぁっ…くだらない」
本当にああ言うのはくだらない。同じ人間として心から幻滅する。私にはあの人を理解する事なんて出来ない。いや、同じ人間とも思えない。
悔しい。とても悔しい。同時に、今の会話を聞いて飛び出して「やめて」と言えない自分に対しても悔しい。
弱気で思った事が上手く伝えられない。心で思うことは沢山あるのに、言う勇気は私にはない。
だから、いつも聞き流すだけ。


