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その後、仕事が終わってから針谷さんには「1人で帰ります」と、メールを送り急いで会社を後にした。

バスに乗り焦る気持ちを必死に抑えてマンションに戻る。厳重なセキュリティを解除して、一目散に部屋のドアを開けた。

鞄を玄関に投げ捨て、靴も乱雑に脱ぎ散らかしてリビングのドアを開く。


「凛太朗さん?」

いてほしい。そう願いながらリビングを見渡す。

が…私の口からは途端に落胆のため息が溢れた。


「……はぁっ…そう、だよね」

リビングに凛太朗さんはいなかった。帰って来た気配もない。



私より早くに帰宅している。そんな淡い期待をして仕事を頑張って帰って来たもの、とても残念な結果で終わってしまった。


そうだよね。直帰するって言っても、まだ…仕事が終わっていないかもしれない。だいたい、私より早く帰って来ている事なんて今まで一度もなかった。

沢山の人から背中を押されて、一刻も早く…凛太朗さんと向かい合いたかった。


言葉を交わして、理解して、夫婦として同じ道を手を取って歩きたい。その思いを早く伝えたい。

凛太朗さんが帰って来るって、信じて待とう。


本当は姿がないと分かった時、泣きたかった。でも、泣けない。凛太朗さんと会うまでは泣かない。

パチンと両手で頬を叩く。ご飯を作ろう。気合いを入れ、まず着替えようと部屋に向かう。

すると、スマホからメールが届いた音が響き渡る。