「怒鳴っていいのよ。お詫びに素敵なバックでも買ってもらうのもいいかもしれない」


「そんな事言ったら、きっと驚くと思います」


「驚かせていいの。寧ろ、驚かさないと」

「ふふっ…はい。わかりました」


主任は少し不思議な人。物凄く落ち込んでいたのに、主任の笑顔を見ていると元気が湧いてくる。

そっか。そうだよ。話し合えば良いんだ。話せなくてすれ違った。だから、今度は…きちんと話し合う。迷う事なんてないんだ。


また、同じ事を繰り返す所だった。主任に話して良かった。

そう思い、ご飯を食べようと箸を持つ。すると、主任は「あ」と声をあげる。


「でも、凛太朗さんって名前…うちの社長と同じなんだ」

「…えっ?」


思わず、箸を持つ手が固まった。


「凛太朗君ね、私の旦那の後輩なの。海外転勤が終わって日本に帰ってきた時、就職先に悩んでいたら桐生グループのホテルを紹介してくれてのよね。此処に転勤して来たのも、凛太朗君の紹介なの」


「…へ…へぇ…そう、なんですか…」

目に見えない冷や汗が流れた。


「そうなのよ。今日も清掃の時に廊下で会ったら、なんか辛気臭い顔をしていたから、ど突いてあげたけどね」

「……」

もしかして、私…一番相談してはいけない人に話した?

その凛太朗君と私が言う凛太朗さんが同一人物だとは言えなかった。