「…主任?」
「あ、ごめんなさい。そっか…そうねぇ…私も村瀬さんと同じような結婚なの。スピード結婚って言うのかな?一ヶ月で」
「そうなんですか?」
「ええ。旦那が海外転勤がその時あって…付き合っても遠距離なら付き合う意味はないから、どうせなら結婚しようって。記入済みの婚姻届と指輪を持ってね。まだ、付き合ってないのによ」
「だ、大胆ですね」
なんか、強引な所は凛太朗さんに似てる。
「大胆だけど、それが素敵だったの。それも悪くないかもって。似ているわね、私達」
「その結婚で…トラブルとかはなかったんですか?」
「すぐ子供も出来たから、村瀬さんみたいな事はなかった。海外の生活とか言葉とか覚えるのが大変だったの事もあるけどね」
「そう、ですか」
「だから、良い事は言えないかもしれないけど…付き合っているだけなら、そのまま別れる事が出来るけど、夫婦ならそう言うわけにはいかない。まだ、村瀬さん達は話し合えるの。こうやって、椅子に座って…相手を見て話し合える。夫婦だから、これから先の為に話し合わないといけない」
主任がそっと手を伸ばして、私の手をとる。
「手をとって、相手の体温を感じて言葉を交わすのが大事。言葉は時に凶器にもなるけど…相手に思いを伝えるのは言葉しかない。大丈夫よ。怖がらないで。信じて、いいの。その人の事、大好きなんでしょ?」
「は、はい…大好きです。だから…起きた時にいてくれなくて、寂しかったです」
「なら、言っちゃいなさい。初めて夜を過ごしたのに隣に居ないなんて酷い!ばかって」
握られた手を離して、主任が微笑んだ。


