「華子さ、俺と結婚を決めた時に言ったよね。覚悟を決めたって。結婚する覚悟を決めたんだよね」

「もちろんです。凛太朗さんの支えになりたいって思っています」

「支えになりたいって、それが華子の覚悟なの?」

「…え?」

私から視線を外す。凛太朗さんの表情が歪み、何かを抑えているようだ。

「結婚するって、どういう事なのか分かってる?」

「…それは」

その問いに私は答えられなかった。言葉を失う私を前に彼はため息をはく。


「華子は結婚する事の意味も分からなくて…俺と結婚する覚悟なんて出来ていなかったんだよ」

「……凛太朗さん…」

私の両手を握り、ずっとそらしていた視線を向ける。

「結婚って、惹かれあった男女が…この世からいなくなるまでずっと共にいる事だよ。家族と言う無償の愛を築く関係になることなんだ」

「……っ」

「俺達の始まりは惹かれあった過程がなかった。結婚が全ての始まり。それでも、俺は…俺の夢を素敵だと言ってくれた華子を好きになる自信があった。この子を愛しいと思えるようになる自信があったから、結婚を申し込んだ。現に、いま…華子が好きだから」


人が賑わう声が街には溢れているのに、凛太朗さんの言葉はやけに鮮明に聞こえる。