「いいなぁ。私も社長に名前を覚えて呼んでもらいたいかも。あんな整った顔で名前呼ばれたらドキドキしちゃうよ」


「いえ、全然しません。別の意味でドキドキするだけです。てか…そんな事言ってさ、彼氏に言いつけるよ」


彼女には3年交際している恋人がいる。ちなみに、社内恋愛でなんとバーテンダー。2つ年下だけど、年齢以上に大人っぽい人。


「いやだ、ただの目の保養だってば」

「ふ〜ん。と、言うか…いつまでも話してて大丈夫なの?そろそろペストリーも全体ミーティングじゃない?」


腕時計を桜に見せると大きな目を更に大きく見開く。


「まずい、もうこんな時間だ。じゃあ、行くね!掃除頑張って!」


お互いに手を振り、それぞれの仕事場に戻る。


(はぁっ。それにしても、なんで桐生社長は私に構うんだろう)


顔を伏せても帽子を奪われ、隠れると探されて帽子を奪われる。そして頭を触るのはいつもの定番。

少し前の話だけれど、話しているところを清掃部の人に目撃されてしまい、それが志田さんの耳に入った。


その時はどういう関係なのかと問い詰められ、ただ話していただけだと適当に言い訳をしたのに、志田さんは1週間も口を聞いてくれなかった事がある。


だから本当に話しかけて欲しくない。


「はぁっ…」


会社の倒産から転職を繰り返すこと3度目の正直ならぬ4度目の正直。もう辞めたくない。それこそ結婚するまで。なんて、恋人の1人もいないけれど。