失礼な事をしてしまった申し訳なさと、気まずさから顔を毎回伏せるのに、社長は私の気持ちなんて御構い無しに帽子を取り顔を覗き込んで来る。
整った顔は誰が見ても魅力的。私も例外ではないけれど、慣れない男性と話すのは苦手でいつも身体を強張らせてしまう。
「今日もトイレ掃除なんだ。頑張ってね」
奪われた帽子を被せ、大きな手でポンポンと軽く触れるとそばにいた男性と何か話しながら去って行く。
逆三角形のスタイル抜群の背中を眺めていれば、桜がニヤニヤしながら肘で私の身体を突いてくる。
「ふふ、ちょっと、ちょっと」
「な、なによ」
「社長ってば、相当根に持ってて、華子の事お気に入りみたいじゃない?会えばいつも声を掛けて来るじゃん」
「からかっているだけだって。と、言うか…毎日あんな風にされて緊張するし、困ってるんだよ」
台車を押し歩き出すと桜も隣に並ぶ。
「そりゃさ、この会社で桐生社長を知らない人なんていないわよ。それを…ぷっ、ふふ!」
以前、間違えてしまった時に私は気が動転していて休憩になると桜のもとに行きその事を話した。大笑いされたのは言うまでもない。


