「おはよう、ございます…しゃ、社長」
「おはよう。村瀬さん。社長の桐生です」
「は、はい…ぞ、存じ上げています」
清掃着として支給された小さいツバのついた帽子を目の前の社長は微笑みながら手で弄ぶ。
社長こと桐生凛太朗。いま、目の前にいる人は『ヴィア・ラッテア』の社長。
この人が、私の大きな壁の1つ。それは遡る事、3月前のこと。
ミーティングが終わり、いつもの通りに2階のトイレ掃除を終え次の階に移動しようとエレベーターを待っていた時だった。黒のパンツに青色のシャツを着た男性に声を掛けられた。
なんでも、大切なペンを落としてしまったらしく知らないか?と。
移動の際にもペンなど見ていなくその事を伝えれば「見つかったら教えて」と言われた。
綺麗な身なりにをしていた為、ホテルの利用者だと思い「こしこまりました。お名前とお泊まりのお部屋を教えて頂けますか?」そう返答したのが大失敗。
その男性こそが桐生社長こと桐生凛太朗。
桐生グループ会長である桐生銀治郎の息子と言う事だけで写真をチラリと見たことがあるだけで生で見たことがない為よく知らなかった。
甘いマクスに優雅な立ち振る舞い。従業員からとても人気があり王子様、プリンスなんて影で呼ばれている話は聞いていた。
だから、まさか…私服でうろついているなんて思いもしなかった。
大笑いされた後、名前を聞かれ…それからと言うもの、顔を合わせると帽子を奪われ「桐生凛太朗です」そう微笑みながらからかってくる。


