しかも、楽しそうに雑談をしながら。あの時はショックで見なかった事にした。


「でも、本当のことよ。華子が入る前にね、客室清掃部って人の出入りが激しいからって支配人が直々に皆んなに話を聞いたのよ。それで、新人に対する接し方とかを再指導されたらしいけれど…やっぱり、意地悪な人って変わらないのよ。てか辞めればいいのに。それか系列ホテルに飛ばせばいいのよ。前の職場でも帝国築いていたのかな?」


「どうなんだろうね。でも、あの人…清掃部の事は主任より経験あって詳しいのは事実だから…辞められたら困ると思う」


「勘違いしている指導者なんていらないわよ。私なら言うよ。調子に乗らないでくださいって」


桜は物事がはっきりと言えるタイプ。誰かに媚を売るようなことはしない。間違っていることは間違っていると白黒はっきりしている。


「まぁ、もし堪えられないようなら言って。すぐにシェフに相談するから。それか早く部署を移動してもらうしかないわね」


「そうだよね…あっ」


ふと、台車を押して歩く脚が止まった。


目の前から2人の男性が歩いてくるのが見え、被っていた帽子を深く被り直す。


顔を隠すように壁際に桜と寄り「おはようございます」と声を掛けると、男性のうち1人が脚を止めた。


ゴクリと大きく息を飲み込み顔を伏せると、視界に床と近づいて来た男性の革靴が見える。


「まずい」そう思った時には既に遅く、伸びて来た手が帽子のツバを摘む。


引き上げられ、露わになった顔を覗き込まれぎこちなく微笑んだ。