そんなことがあったなんて…

でも、微かに覚えている。大好きだったお兄ちゃん。

いい、思い出…

話終えて、それからは、夕飯を一緒に食べ、今日は、帰ることにした。

「…泊まっていけばいいのに」

寂しそうな母を置いていくのは気が引くけれど。

「…ゴメンね。明日も朝から仕事が忙しくて」
「…そう、それじゃあ仕方ないわね。気を付けて帰るのよ?…ぁら?…ルーちゃん?」

横の大きなお屋敷の玄関に手をかけた男性に声をかけた母。

「…おばさん?…美々?」

そこに立っていたのは、あの写真に面影のある人だった。

薄茶色の髪、青い瞳。

「…ルーお兄ちゃん」
「…美々、大きくなったな…いや、綺麗になったの間違いだな」

そう言って微笑んだ顔は、心の中にスッと染み込んで、温かい気持ちになった。

確かに、私はこの人を知っている。

表札には、北条と書かれている。

「…北条ルー」

私の言葉に、クスクスと笑ったルーお兄ちゃんはすぐに首を降った。

「…北条ルカ…あだ名でしか呼ばれなかったから、覚えていないよね」

「…ごめんなさい」
「…いいんだよ。それより、どこかに出掛けるの?」

「…いえ、一人暮らしを始めたので、そこへ帰るところです」
「…そう、あ、少し荷物を取りに来ただけだから、車で送るよ。いいですか、おばさん」

ルカの言葉に、母は快諾した。