「ご、ごめん!ありがとう。」
散らばったプリントやノートを拾ってこいつに渡すと、愛らしい表情でニコッと笑う。
「ねえ、名前なんて言うの?」
「お前に教えてなんか得あるかよ。」
俺はそうぶっきらぼうに答えた。
この時は別に、こいつを可愛いとも思わなかった。
ただ、自慢じゃないけど俺を知らない奴はいないと思う。
生まれ持ったこの顔で、女に困ったことは一度もないし名前を聞かれたこともなかった。
だけどこいつは、俺のこと知らない。
俺と同じで、人に興味がないんだろう。
「得?言われてみれば無いね?」
不思議なやつだと思った。
はははっと笑う彼女を、言葉で表すなら‘‘自由’’。
そんな天真爛漫なこいつを、俺はこの時から目で追いかけはじめていたのかもしれない。
「授業ちゃんと受けなよ。」
「お前もな。」
じゃあねと言って走って行く彼女。
そんな彼女が廊下を曲がるまで、俺はずっと見ていた。
また転けてプリントばら撒いたりしねーかな。

