握った彼の左指にあるもの。

思わず触れて、反射的に勢いよく手を離した。


体が微かに震える。

怒りなのか、悲しみなのか分からないけど、カタカタと小刻みに震えた。

必死に抑え込もうとするけれど、体はいう事を聞いてくれない。


そんな私を見ても表情一つ変えずに私を見つめる彼。

その表情からは、何も感じ取れない。


「結婚……してるんだ?」

「――」

「そうだよね。指輪……してるもんね」


今にも震えそうな声で、そう吐き出す。

聞くまでもないよね。

その薬指に輝くリングが、何よりの証拠。

大きな手にはまる、愛の証。


鉛を飲み込んだ様だった。

天国から地獄に突き落とされた気分だった。


だって。

その指輪をつけた人は。

目の前にいる人は。


決して好きになっては、いけない人――。