その手が離せなくて


顔を上げてそう言った私を見て、先輩は一度瞳を揺らした。

微かに息を飲む音が聞こえて、逃げるように瞳を伏せた。


「本当・・・・・・なんだ?」

「――」

「不倫、してるの? 一ノ瀬さんと」


僅かな間を置いて、小さくコクンと頷いた私を見ても何も言わない先輩。

どこか重たい空気に耐えられなくなって、ゆっくりと出口に足を進めた。


「部長の所に行ってきますね」

「望月・・・・・・」

「ありがとうございます。先輩。私の事、少なからず信じてくれて」

「――」

「ごめんなさい」


周りの噂に流されたかったのは、私の事を信じてくれていたから。

それなのに、裏切ってしまった私の信用は地に落ちた。


芯が強くって正義感の強い先輩の様な人だったら、きっと私みたいにならなかったのかな。

きっと、道なんて踏み外さなかったんだろうな。