一言でいいから『好き』だと言ってくれたら、どれだけ救われたか。

どれだけ、この胸の痛みが和らいだか。


だけど、彼はその場しのぎの嘘は言わない。

自分の感情を曇らせたりしない。

その場に、流されたりしない。

――そういう所、好きになったんだから。


「柚葉」


扉を閉めて振り返って手を振ろうとした時に、窓を開けた彼に名前を呼ばれて首を傾げる。

何だろうと思って、声を上げようとした時。


「十分、柚葉は『人間らしい人』だと思うよ」


そう言って、彼はいつもの様に柔らかく微笑んだ。

その言葉に、目の前が微かに揺れる。

その意味を、自分の良い様に解釈する。


「え・・・・・・それって」

「柚葉は、今のままでいいと思う」

「――」

「また、連絡する」


胸が締め付けられて何も言えなかった私に、片手を上げてエンジンをつけた彼。

そして、またな。と言って暗闇の中に消えて行った。