その手が離せなくて


誰も私達の事を知らない土地。

隠れる事も、周りの目を気にする事もない場所。

それがとても嬉しくて、繋いだ手を必死に握りしめた。



それから、一緒に川へ釣りに行った。

なんでも祖父の家が田舎らしく、幼い頃はこういった様な場所でよく遊んでいたみたい。


「気を付けて。そこ滑るから」

「ありがとう」

「これつけて、はい」

「ちょ、ちょっと動いてるよ!! 無理無理無理っ」


どこから取り出したのか、砂の中にミミズの入った袋を取り出した一ノ瀬さん。

久しぶりに見るそのウニョウニョと動くミミズに思わず一歩後ずさりした。


そんな私を見て、ケラケラと笑う彼。

いつもはスーツ姿できびきびと歩く姿しか見た事無かったから、なんだかその無邪気な姿が新鮮だった。


ミミズをつけた竿を渡されて、彼が後ろから竿を持つ私の手を誘導してくれる。

耳元に彼の声が聞こえて、思わずドキッとする。