その手が離せなくて


ブンブンと否定する様に小さく顔を横に振った萌を見て、薄く笑う。

こんな私の為に泣いてくれる萌。

大切にしていかなきゃって思うのに。


「もう、戻れないの」


彼女を突き放す言葉を口にする。

私の肩を掴んでいた彼女の手をそっと下して、ギュッと握った。


「好きなの。一ノ瀬さんの事が。例え、結婚していても」

「――ダメだよ、柚葉」

「都合のいい女でも、暇つぶしでも、恋愛ごっこでも、そこに愛がなくても。それでもいいの」

「だって、そんなの――」

「幸せになりたいなんて望んでない」

「――」

「ただ、側にいたいの」


愛してほしい。

私だけを見てほしい。


そう思っているのは確か。

だって、女は欲深いイキモノだから。


だけど、それだけは口にしちゃいけない。

それは私が初めに決めたルールだから。