その手が離せなくて


ずっと本気にならないようにしてきた。

きっと、あっちも本気じゃないだろうからって。

いつ別れの時がきても、泣かないように。

素直に、受け入れられるように。


久しぶりに感じたトキメキに酔っていただけ。

誰にも言えないスリルに酔っていただけ。

結ばれる事のない悲恋に、酔っていただけ。

退屈な日々に、スパイスを――。


そう思っていたのに。


「恋してるの、私。どうしようもないくらい」

「――」

「彼がいなきゃ、ダメなの」


気が付いたら、もう戻れない所まで堕ちていた。

引き戻す事もできたはずなのに、私は自ら堕ちた。


彼の笑顔が見たくて。

彼の傍にいたくて。


あなたに出会った、あの日。

ようやく巡り会えたと思った。

だから、繋いだこの手を離せなかった――。