その手が離せなくて


呟いた言葉が静かな部屋に落ちて消える。

ぐっと両手を握って、強く瞳を閉じた。


否定する事もできた。

誤魔化す事もできた。

笑い飛ばす事だって、できた――。


だけど、彼を否定したくなかった。

この気持ちを嘘にしたくなかった。


あぁ・・・・・・私は、もう狂っているのかもしれない。

『不倫』という事に、罪悪感が無くなっていたんだから。



「恋・・・・・・ね」


コトンと静かに持っていた缶ビールを置いた萌が、そう呟く。

そして、私の顔を見ないで口を開いた。


「ただの、寂しさの埋め合いでしょ?」

「ちがっ」

「例え柚葉はそうじゃないとしても、あっちはきっとそうだよ。変わらない日々に刺激が欲しかっただけ! 柚葉を利用してるだけ!」


真っ直ぐな萌の言葉が胸に刺さる。

だけど、言い返せないのは心のどこかで私もそう思っていたからかもしれない。