その手が離せなくて


音を無くした部屋。

何も言わずに、ただただ見つめ合う。


何か言わなければ。

違うって否定を――・・・・・・。


「不倫、してるの? 柚葉」


だけど、追い打ちをかけるような萌の言葉に、息がつまる。

『不倫』という言葉を聞いて、体が震えた。


「ちがっ――」


否定しようと声をあげたけど、言葉が続かなかった。

脳裏に彼の顔が浮かんだから。

笑顔が、私を呼ぶ声が、髪を撫でる大きな手が浮かんで、胸が張り裂けそうだった。


「正直に話して、柚葉」

「――」

「柚葉」


何も言わない私に、萌の声が降ってくる。

まるで子供に問いかける様に、優しく。


グルグルと頭の中に言葉の渦ができる。

いろんな言葉が浮かんでは、消えていく。