その手が離せなくて








「もぅ~なんで教えてくれなかったの~」


ソファに座りながら缶ビールを片手に持った萌が、ポテチをつまんだ私に何度目かの言葉を浴びせる。

思わず苦笑いを浮かべた私に、萌は頬を膨らませた。


「頻繁に会ってるの!? 連絡先は!?」

「も~落ち着いて萌。一ノ瀬さんとはそんなんじゃないって」

「なんで! 少し前までは会いたいとかなんとか言ってたじゃない!」

「取引先の人だよ? おまけに――」


そこまで口にして、思わず言葉を切った。

『結婚しているんだよ』と続く言葉が、喉の奥に詰まっている。


萌には今まで隠し事をした事がない。

それほど、大切な友達だ。

だけど、これを言っていいのか分からない。

この事を聞いて、萌が私に対する見方を変えるのが怖い。


「・・・・・・おまけに?」


言葉を無くした私を見て、萌が不思議そうに首を傾げた。

その姿を見て我に返った私は、急いで笑顔を作る。


「あんな、かっこいい人、私なんて相手にされないよ」


代わりの言葉を言って、急いで立ち上がる。

やっぱり、言えない。