その手が離せなくて

「じゃぁ、お疲れ様。望月さん」

「お疲れ様でした」


それでも、どこか互いに業務的に。

深い仲だとバレないように、防衛線を引く。


カツカツと革靴の音が静かな路地に響く。

徐々に小さくなっていく大きな背中を見つめて、萌にバレない様に小さく息を吐いた。


「ごめんね柚葉。邪魔しちゃったね」

「ううん。本当にたまたま会っただけなの」

「それならいいんだけど・・・・・・」

「さ、部屋行こう」

「やったー!!」


お酒も持ってきたの。と言ってコンビニの袋を持ち上げた萌。

そのいつもと変わらない姿を見て、内心ホッとする。


大丈夫。

バレてない。

もちろん、萌えは一ノ瀬さんが既婚者だとは知らないだろうから、誤魔化す事なんて簡単だろうけど。

それでも、誰かに見られたという焦りが、心臓を痛いくらいに締め付けた。


「急げ急げ~寒い~」


キャッキャとはしゃぐ萌を追って、私も歩みを早める。

チラリと振り返った先には、もう彼の姿はなかった――。