その手が離せなくて


「会社の取引先の人。あ、ほら、合コンパーティーで一緒に飲んだ、一ノ瀬さん」

「あ、例の!! え、再会してたの!?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「言ってないよ~!! おまけに取引先ってどういう事?」

「ん~、詳しくは後で話すよ。じゃ、一ノ瀬さん、ここで」


大きな目をクリクリにした萌に苦笑いを落として、隣の一ノ瀬さんを見上げる。

すると、優しく微笑んだ彼が小さく頷いた。


「え、ゴメン。私邪魔だった?」

「いや、俺もバッタリ会っただけで、もう帰る所だったから」

「――そうですか」


どこか萌が申し訳なさそうにそう言ったけど、一ノ瀬さんは問題ないと言った様にニッコリと笑った。

その姿をじっと見つめる萌。

それでも、すぐにいつもの笑顔を作って去ろうとした彼に手を振った。


「じゃ、柚葉はお借りしま~す」

「ちょっとレンタルじゃないんだよ、私」

「2人とも帰りは気をつけて」

「「は~い」」


まるで私達の保護者の様な口ぶりの彼に思わず笑ってしまいそうになる。

それでも、最後の去り際に一瞬だけ私の目を見て微笑んだ彼に微笑み返した。