「・・・・・・柚葉?」


どこか控え目な声で呼ばれて、小さくその場で飛び上がる。

一瞬にして背筋が凍って、声すら出なくなる。

勢いよく後ろを振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。


「――も・・・・・・え?」

「あ、やっぱり柚葉だ」

「ど、どうしたの? こんな所で」

「仕事が近くであったから柚葉の家に寄って行こうと思って」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

「電話しても出ないから来ちゃった」


先程まで彼に抱き着いていた腕を急いで離して、距離を取る。

ニコニコと笑窪を作りながら駆け寄ってくる萌に、どこか、はにかんだ笑顔を送る。


隣にいる彼を見る事もできない。

頭の中が一気にパニックになる。


「で、こっちの人は?」


無邪気な萌の声が緊迫した空気の中に落ちる。

目が泳いでいる事がばれないように、無駄に笑顔を作った。