「あ、長谷(はせ)さん」





放課後の廊下のど真ん中。



喧騒の中でなぜか、そのたった一人の声だけが、クリアにあたしの耳に届く。





「……新渡戸(にとべ)くん!」





きっとそれは偶然なんかじゃない。




キミがあたしの名前を呼ぶだけで。


その姿を視界に捉えるだけで。



世界がピンク色に色づいて、砂糖菓子のようにふわっと甘くなるのだ。





「いま帰るとこ?」



「うん! そうだよ。新渡戸くんも?」



「そー。……駅まで一緒に帰る?」



「ふええ!? ぜ、ぜひ喜んでっ」





ぷぷっと小さく吹き出す彼。


笑った……っていうか、笑われた、のかな?