教室に入るとすごくにぎやかで私に視線が一気に集中した。
 みんな私に話し掛けようとしてたけど、何も無さ気だった。ただ1人除いては…
「明~!どういうことよ!!?」
「アリス~!聞いてよ!!」
 私は半ば頬を濡らしながら、今日図書室であったことをアリスに全部一から説明した。
「へぇ~、そういうことね。」
「アリス、私どうしよう!」
「どうも、こうもそうなったら付き合わないと!それに、成瀬君ってヤンキーだけど頭良いし、成績は常にトップだし、顔も良いしスポーツも出来てWミスコンでも1位確定候補だよ!」
 「はい、はい。」とテキトーに流し、アリスとの出会いを思い出す。
 アリスこと、浜園アリスは顔立ちは奇麗で美しく、韓国とイタリアのハーフでイタリア語と韓国語はもちろん、中国語や英語、フランス語と語学堪能で、勉強とスポーツ以外は何でも得意な中学からの親友。そして、アリスは外国の有名化粧品会社ラブアンドデビル通称ラブデビの社長をやっているイタリア人の父を持つ。いわゆるお嬢様。別荘もあるし、日本に来るまではお城暮らしだったとか。
 ちなみに『Wミスコン』とは私の通ってる学校であり、私のおじいちゃんが理事長をしている、この学校「私立黒星学園」の学園祭名物のミスコンである。うちの学校のミスコンは普通のミスコンとは違い、最も優れた女子と男子を決めるものである。校内全員強制参加とかではなく、自主的に立候補したり、ミスコン参加ボックスというアンケートボックスが置かれ、その箱の近くにおいてあるペンと紙に名前を書き、この子いいと思うという子を推薦したりして、決めたりする。
 推薦された子は後日推薦されましたという報告書とともに、参加するかしないか丸を付ける紙が配れる。その子が参加しないというところに丸を付ければその子は除外されるというシステムだ。
「…ぇ、ねぇ明?」
「はい!って涼?どうしたの?」
 しまった。考え事しすぎてるあまり名前呼ばれてたの気づかなかった。
 涼と呼ばれたその男の子は、九頭竜涼真と言って、頭良し、性格良し、顔は成瀬君と争うくらいのイケメンで、もやしに見えて、剣道部のエースだし、合気道の達人で、剣道も合気道も世界ランキング5位のプロとして活躍しているし、おまけにモテる。
 そして、私の大切な幼馴染。だから、私だけが涼と呼んでいる。
「あのさ、玲と付き合ってるって本当?」
「えっと…」
「っぷ。顔真っ赤。あ、もしかしてだけど…」
「うるさい。アリスはほっとけよ。で、どうなの」
「本当だよ。」
「え、でも、ヤンキー嫌いなんじゃ……」
「明、ドアの方…」
「えっ…、はっ…!!」
 私は息をのんだ。そこにいたのは、何と成瀬君だった。
「どうしたの、玲?もしかして、明ちゃんに用事?」
 クラスでも一番派手な髙海鈴が、猫なで声の普通よりも2割増しのトーンで訊く。
 あのドロッとした、人によって性別によって態度が変わったり、ぶっりこな性格など全て無理で嫌いだった。
 でも、実際鈴ちゃんはかわいい。性格を抜けば、完璧な美少女だ。女子力もある。寝る前は、顔にオ●ナイン塗ってニキビ対策してるらしいし、ボディクリームも塗り保湿し、さらにマッサージとストレッチして小顔対策やむくみ対策などしてるらしい。
 ちなみに、鈴ちゃんは芸能界にスカウトされたとか。今は、学校を優先してるっぽいけど、将来は、モデルになるっぽい。
 彼女と成瀬君ならきっとお似合いだろう。だが、私がそんなことを考えていると成瀬君は冷たい視線をしながら
「邪魔、どけ」
 と、もの凄い目力で睨みつけながら、彼女とのすれ違い様にわざとではないんだろうけど、肩がぶつかってしまった。
 一方、彼女はというと、怒りと悔しさで泣きそうなのを懸命にこらえて、肩が震えている。
 成瀬君は、そんなの気にも留めず私の方へ一直線に、スタスタ歩いて無言で私の手首をつかみ、無理矢理教室から引っ張り出した。
 怖い。ものすご勢いで睨まれている。その中心には鈴ちゃんが。
 ねぇ、私がいじめられたら、どうするの?
____________スタスタと歩く音、上履きが廊下の床と摩擦してキュッキュッとなる音しか聴こえない。

____キンコーン、カンコーン
 昼休み終了と5限の予鈴がなる。
「ちょっと、5限サボるの?」
「____………………」
 質問したのに、成瀬君は無言で図書室に入った。
 図書室に入った途端に、5限始まりを告げる鐘が鳴る。ぁあ、終わったな、私の優等生生活。
「……前。」
「へ?」
 急に成瀬君が喋りだした。そんな、急に前と言われましても…___、前見ればいいの?
 私が前見ると何もなくて…?
「名前!俺も名前で呼びたい」
「へ?あぁ、名前ね。いいよ別に」
 今度はばっちり聞こえた。冷静さを保ちながら、ぶっきらぼうにそう言いつつも、私は心の底から真っ赤になった。
「なぁ、俺のことも名前で呼んで?」
「え、それはちょっと…」
「へぇ、涼真のことは名前で呼べるのに?」
 なぜそこで涼が出てくるのだろう?成瀬君が何故か怒っているが、私にも言い分があるんだからしっかり言わないと。
「涼は幼馴染だから!別に平気だけど…」
「だけど…、何?」
「成瀬君は違う。私は地味で眼鏡かけてていつも堅苦しいみつあみして、特にかわいいわけでもない。もしこのまま成瀬君のことを名前で呼んだら、成瀬君のファンに殺されるし、何て言われるか…。とにかく絶対に嫌‼」
「ふ~ん。なら、お前が…明が俺の女になるまでだな。」
「それも嫌!」
 あ、やっちゃった。傷ついたかな?
「えっと…ごめ………」
「なぁ、お前じゃなくて明ってヤンキー苦手なん?」
 謝ろうとしたのを遮られて、成瀬君に質問された。
「へ?あぁ、そうだね。私がヤンキー苦手なのはお兄ちゃんのせいだけど…。それがどうかした?」
「いや、じゃぁ、俺ヤンキーやめるわ。明に似合う男になる。」
と言い残して、成瀬君は図書室を私一人にして出て行った。