「お嬢様もいい加減、無謀に突っ込んでくのやめてくださいよ。心臓に悪いから」
「だって、恭平が危ないと思って……」
「私のことはいいんですよ」
 恭平はわずかに目を伏せて、いつだって言うのだ。
「私は、お嬢様のために存在しているんですから」

 なんで気づかないんだろう。
 どうして見ようとしないんだろう。
 恭平がそれを言ったあとの、お嬢様の顔を。

「……ね」
 
 にこりと笑って、ぽんとお嬢様の頭をなでる。

「……ん」

 声を飲み込み、お嬢様もまたいつだって小さくうなずくのだ。

 そしてこのやり取りを見るたび、私は思う。

 ああ、勝てないんだな、と。
 この二人の間に、私の入る隙間なんて一ミリだってないんだな、と。

 本来の立場を考えたら、恭平がお嬢様の傍にいることなんて許されなくて。
 そんな恭平がお嬢様に恋心を抱くことなんて絶対にありえちゃいけないわけで。
 そして、お嬢様もまた恭平に自分の盾以上の興味なんて持っていいわけもなくて。

 それでも二人は、お互いを想ってる。

『私を好きになれば、楽になれるよ』

 違うな。
 それは決してあり得ないこと。

『お嬢様をあきらめて、私を選べば……』

 なんて言葉を紡いで、虚しくなる自分を知る。
 
 むしろそれは、私のほう。
 恭平をあきらめて、別に誰かを……。
 
 ふうと小さくため息をこぼし、私は静かに首をふる。
 そんなことができたら、迷わずそうしてる。
 結局私も馬鹿なのだ。
 そんな機会なんて山ほどあって、こんな仕事だから周りに別の誰かなんてたくさんいて。それでも私は、恭平を選んだ。
 決して報われないことを知りながら。

 あの二人だって、きっとそうなのだろう。

 お互いにお互いが報われないと思いながら、想い合ってる。
 無謀な片思いだと、絶対に実ることのない恋だと、お互いが思いあってる。
 はたから見たら、お互い好きだなんてバレバレだってのに。

 だけど私は、教えてなんてやらない。
 当て馬にされるのなんてまっぴらごめんだし、答え合わせの済んだ恋なんて興ざめでしょ? ……なんて。これはただの私の醜い嫉妬だけど。 

 なんにせよ、せいぜい苦しむがいいさ。
 周りからしたらまるで道化だし、その恋が実ったら実ったで……。

 そこから先は、茨の道だよ。