僕が家に着いても
凌杏はまだ帰って来ていなかった。

『美卯ちゃん、ただいま』

今から洗濯して乾燥すれば
夜には着られるだろう。

「お帰り。

心咲ちゃんは起きなかったよ」

二時間くらい出てたのに
起きなかったのか。

『お留守番、ありがとね』

さて、柊和に電話しなくちゃな。

『美卯ちゃん、
ママに電話してくるね』

今頃、学校から
帰って来ない美卯ちゃんを
心配してるだろうから。

『《もしもし、僕だけど》』

柊和は意外と
直ぐに電話に出た。

「《心綺人?》」

不思議そうな声音で呼ばれた。

それもそうだろう、
本当なら僕から電話が来る
予定なんてなかったんだから。

『《美卯ちゃんが
帰って来ない上に
連絡が取れないから
心配してるじゃないかと思ってね》』

あの姿と精神状態では
当然、柊和に連絡する
余裕はなかったはず。

「《何で、心綺人が
それを知ってるんだ?》」

本当のことは言わない約束だからね。

『《学校帰りに心咲に会いに
寄ってくれたんだけど
慣れない学校生活で疲れたのか
僕と話してる途中で寝ちゃったから
起こすのは可哀想だし、
泊めようと思って電話したんだよ》』

嘘も方便。

美卯ちゃんのためにも
少しの嘘は許してもらおう。

「《そうなのか……》」

『《本当は長居するつもりは
なかったみたいで帰り際に
連絡するって言ってたんだけど
寝ちゃったから、僕が代わりに
連絡をいれさしてもらったよ》』

本当は起きてるし、
イジメのことを言えないからだけど
寝ちゃったってことにすれば
柊和も納得するだろう。

「《わかった……

悪いけど、泊めてやって》」

ほら、納得した上に
お泊まりの許可もでた。

『《わかった、
美卯ちゃんをお預かりします》』

最後だけわざと
かしこまって言ってみた(笑)

「《よろしくお願いいたします》」

柊和もかしこまって言った。

幸いなことに明日は土曜日。

外傷はなかったから
制服を汚されただけだろけど
精神的にはかなり参ってるに違いない。

『《じゃぁ、美卯ちゃんが
帰る時にまた連絡するよ》』

それだけ言って
電話を切った。

『お泊まりの許可が出たから
ゆっくり休んでてね。

僕は夕飯の支度をしちゃうから』

これで、とりあえず大丈夫だ。

『ただいま帰りました』

それから、二時間後に
凌杏は帰って来た。

『お帰り、凌杏』

「凌杏君、お帰り」

リビングに来た凌杏に
二人でお帰りと言った。

『おや?

心綺人、女の子に
なんて格好をさせてるのですか』

確かに、スカートが短いのと
シャツ一枚をワンピース代わりに
しているのじゃ
同じ短さでも少し違って見える。

『ちょっとあってね(苦笑)

美卯ちゃんは今日、
お泊まりするから
洋服とか色々、
買って来たんだけど
まだ、乾燥機の中だから
凌杏のシャツを一枚着せたのさ』

さてと、乾燥機は
後、どれくらいで終わるかな。

『私のシャツを着せるの構いませが……』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

夕飯後、美卯ちゃんは
僕に話してくれたのと
同じ事を話した。

『それは……』

珍しく凌杏がキレている。

僕の嫌がらせの時以来だな(苦笑)

「り、凌杏君……?」

美卯ちゃんは初めて見たんだろう。

凌杏は普段、優しくて
物静かとはいかないけど(苦笑)
めったにキレない。

生徒達とも友達のような関係を築き
古参の教師達から“なってない”
なんて言われているけど
それだけ、凌杏が生徒達に
好かれている証拠だ。

例外は
“大切な人が傷つけられた時”。

元担任の娘だし
それこそ、
彩月ちゃんと同じように
生まれた時から
知っているんだろうから
イジメにあってるなんて
知ったらキレるだろうね。

『先生達には
知られたくないんですよね?』

美卯ちゃんが頷いた。

そりゃそうだ……

僕の場合、“男”だし
“高校生”だったのもあって
最初は言えなかった。

だけど、母さんは
初めて生理になった時と同じように
優しく抱き締めてくれた。

『いいですか美卯さん、
そういう連中には
口で何を言っても無駄ですから
期末テストで
学年で一番を取るのです。

勉強が出来る相手には
何も言えないのが
小・中学生のルールです』

それは一理あるかも。

「英語教えてくれる?」

おや、僕の出番だね♬*゜

『勿論(๑•᎑•๑)

僕は英語教師だもの
美卯ちゃんが
わかるまで教えてあげるよ。

テスト範囲表と教科書と
ノートを出してごらん』

こうして、
期末テストの勉強をすることになった。

英語だけじゃなく
文系の教科全般を僕が
一つ一つ教えてあげた。

理数系はやっぱり
得意みたいで、だけど
わからない所は
凌杏に聞いていた。