「凌杏君、実験室に
心綺人君を案内してあげたら?」

美卯ちゃんが突然言い出した。

「あ、ごめんね……」

そして、謝られた。

うん?

「勝手に名前で呼んじゃって……」

あぁ、それか(苦笑)

『大丈夫だよ。

名前で呼んでくれて嬉しいから』

こんなにしっかりした
小学六年生は中々いないと思う。

友人や親戚の子供が
小学六年生の頃は
生意気だし敬語なんて
使われたためしがない。

おまけに気配りまで
できるのは二人の
育て方がいいのか
環境のせいか……

どっちかじゃなくて両方か(苦笑)

『美卯さんも一緒に行きますか?』

今度は凌杏が美卯ちゃんに訊いた。

「うん‼ 行く‼」

嬉しそうだ。

『では、行きましょか』

*✲゚*。 ♪*✲゚*。 ♪*✲゚**✲゚*。 ♪*✲゚*。

美卯ちゃんの部屋を出て
二人の案内で実験室に向かった。

中は整理整頓されていて
真ん中にテーブルがあり、
その上にはビーカーやアルコールランプ、
電子顕微鏡などが置いてある。

壁際には洗い場もある。

備え付けの棚には
色々な薬品が並んでいるし
端にはベッドまで置いてある。

そして、かなり広い。

『凄いね』

文系の僕にはわからない
薬品がずらりと並んでいる。

『美卯さん、ストレス発散に
{薬}作りませんか?』

え!?

「いいの?」

美卯ちゃんも理系!?

『今日は私がいますから』

「やった♬*゜」

楽しそうに準備を
始めた美卯ちゃんを
凌杏はニコニコしながら見守っている。

『美卯ちゃんまで
理系とはね……(苦笑)』

僕の呟きが凌杏に
聞こえたらしい。

『両親共に理系ですからね。

父親である先生は
現役の科学教師ですし』

確かに……

上の方にある
薬品は僕や凌杏が
取ってあげた。

三人(ほぼ二人)で
{薬}作りをした後、
片付けて母屋の方へ戻り
リビングに向かった。

「ママ」

リビングの入り口から
美卯ちゃんが柊和を呼んだ。

「美卯‼」

エプロンで手を拭きながら
近づいて来ると美卯ちゃんを
ギュウギュウと抱き締めた。

「あのね、これ、ママに」

スカートのポケットから取り出したのは
今さっき、作っていた{薬}。

見た目は小さい香水瓶のよう。

「心配かけちゃったのと
何時もありがとうのプレゼント」

首を傾げながらその小瓶を
柊和が受け取った。

『美卯さん特製の
疲労回復薬ですよ』

八割方は美卯ちゃんの愛情だ。

「俺の為に作ってくれたのか?」

頷いた美卯ちゃんに
ありがとうなと言って
頭を撫でた。

「なんつうか
流石、俺達の子供だよな」

柊和の言葉に僕と凌杏は笑った。

「二人とも、ありがとうな」

お礼を言われるような
ことはしていない。

『僕達は何もしてないさ』

美卯ちゃんは心配を
かけたくなくて言えなかっただけ。

まぁ、それが逆に
心配をかけてしまったわけだけど……

『私達にしてくれた話を
柊和さんにもしてあげてください』

美卯ちゃんからもらった
{薬}をエプロンのポケットに
仕舞いながら僕達に
座るようにと椅子を
すすめて来たから
ありがたく座ることにした。

美卯ちゃんは少し
緊張した面持ちで
あの話をした。

「気付いてやれなくてごめんな」

謝る柊和に美卯ちゃんは
首を振った。

「違うよママ」

そう、これは
周りが悪いのであって
柊和や美卯ちゃんは
これっぽっちも悪くない。

「それにね、ママのために
{お薬}作ってたら
自然と楽しい気持ちになったんだ」

大好きな人を思いながら
作る物は料理でも{薬}でも
大差ないのだと思う。

大切なのは相手を思う気持ち。

これなら、当分
柊和に渡した
精神安定剤は
飲まなくて済みそうだな。

『私達はそろそろ帰りますね』

美卯ちゃんの悩みも
解決したことだし
僕達にできることは
もうないだろう。

「もう、こんな時間だったんだな。

今日は本当にありがとうな」

だから、僕達は
何もしてないって(苦笑)

『先程、心綺人も言いましたが
私達は美卯さんの話を
聞いただけで、
何もしていませんから。

美卯さん、何かありましたら
何時でもご連絡ください』

美卯ちゃんと柊和に
見送られて善哉家をあとに
しようとした時、凌杏が
叫ぶように言った。

『例の動画は
この間、お見せする時間が
ありませんでしたから
後程、スマホへ送っておきますね』

あぁ、凌杏が例の二人に
媚薬を飲ませた時のやつか……

「あん時はバタバタしてたからな。

わかった、送っといてくれ」

柊和はニヤリと笑っていた。