「はい。あの、今日のお昼の時、藤本さんから、聞いたんですけど、課長が私のことを良く藤本さんに聞いているっていうのは、本当なんですか?」
思い切って、直球の質問を投げると、課長は『えっ』と短く言って、切れ長の目を大きく見開いた。
『佐藤、お前は何を言っているんだ?そんなあり得ないこと考えている暇あったら、その分仕事に頭使え!さっさと、仕事を終わらせろ!』
と、不愉快そうに物凄い剣幕で、怒号が飛んでくると、私は予想していた。
だって、いつもの課長なら、そうだから。
だけど、今の課長は、違っていた。
そう、あからさまにいつもとは違っていた。
私を捉える、冷たさを感じる切れ長の瞳はずっと見開かれていて、薄い唇は何かを言いかけた時のように、少し開いている。
その表情は、まさに狼狽していた。
張り詰められた空間に、沈黙が流れる。
「……藤本さんが、言ったのか?」
数分が経過してようやく、課長が強張った声で言った。
否定をしないということは、課長が私のことを知りたいと思って、わざわざ藤本さんに聞いているのは、本当のことなんだ……。
本当の事は本当と肯定し、違うものは違うと否定する、はっきりとした性格の課長の普段の反応からして、今の課長の反応は本当のことなんだと確信を持てざる得ない状況だった。
いつもは冷静沈着で何事にも動揺しない課長が、あからさまに驚いて、そして狼狽しているのが、なによりの証拠だ。