藤本さんは、なにやら楽しそうにニコニコと笑っている。
「鬼頭さん、結構厳しいって有名だけど、その裏はとっても、想像とは違う人かもね?あ、もちろん良い意味の方でね」
想像とは違う人って、どんな人?
「……課長は、課長ですよ。仕事に厳しくて、失敗を許さない人です。だから、いつも失敗ばかりして迷惑ばかりかけている私なんてことを、課長が知ろうとしているのが、どうしてなのか……」
本当に、分からない。
普段から、そして今日も課長は変わらず厳しかった。
失敗を繰り返す私に失望して、私から仕事を任せられないと、他の人に回そうとした時も、途中で龍御寺さんが来なかったら、きっと課長はあのまま私に仕事をもう一度頼むことは無かっただろう。
だから、課長が無能な部下の私のことを知ろうとする意図そのものが、目的が、全く分からなかった。
「でもそれは、仕事中の顔でしょ?プライベートはもっと違うかもしれないじゃない」
……課長のプライベートの顔……。
私は、何故か朝起きてから半日中、ずっと考えていた課長の、……昨夜の課長のことを思い出した。
確かに、藤本さんの言う通り、仕事終わりのプライベートな課長の顔は、仕事中のいつもの顔と全く違っていた。
残業中に泣く私を心配したり、好きな食べ物やその時に食べたいものを訊いてきたり、車の中で私の顔芸で無邪気に笑ったり、わざわざ家に連れて行って一週間ろくな食事をしていなかった私におじやを作って食べさせたり、それから私を家に送って、また今度食事に行こうという誘いを私が受けると、嬉しそうに笑ったり、そのあと私が家の中に入るまで見ていたり……。
黙って家に連れて行って悪かったという言葉と共に、そのお詫びとして肉料理を食べに行こうというメールも、スマホにある。
……じゃあ、仕事中の厳しい課長と、プライベートのあの優しい課長、本当の課長はどっちなんだろう?
三年間見てきた課長と、昨夜の課長がギャップがとてもあって、私は再び、困惑した。
「先入観や固定観念を一度捨てて、よく鬼頭さんのことを見てみれば、どうして鬼頭さんがあなたのことを知りたいと思っているのか、分かるはずよ、きっと。じゃあ、お先に」
