昼食の後、お昼休みが終わる前にお手洗いで歯を磨いて、メイク直しをする。


「ねえ、佐藤さん、」


不意に、藤本さんがサーモンピンクの口紅をポーチから取り出しながら、そう言った。


「さっき、鬼頭さんのこと、異性に見れないって言っていたけど、鬼頭さんはなんだか、違うみたいよ?」


「へっ⁈」


な、なんですと⁈


藤本さんの綺麗な唇から発せれた、予想外の言葉に、私は驚愕し、チークを塗るを手を止めた。


課長が、私のことを異性として見てる?


まさか、本当に?


いやでも、冷静に考えてみたら、そんな事は絶対に無いはず。

今日はなんだか、藤本さんは課長を絡めた冗談ばかり言うなあ……。


「いや、だから無いですよ。反対も、絶対にあり得ないですって」


口紅を塗り終わり、カチリとフタを閉める藤本さんは、私の否定に釈然としない表情を浮かべる。


「佐藤さんは、知らないかもしれないけど、鬼頭さんよくね、秘書課に来たりした時とか廊下ですれ違った時とか私に、あなたのことを聞いてくるのよ」


「……えっ、マジでですか?どのようなことを……?」


信じ難い話だったけれど、藤本さんが、嘘を言っているようにも見えなかった。


わざわざ、部署が違う藤本さんを引き留めてまで、私のことを訊き出しているって、課長のその意図は一体何だろう?


「そうねぇ……、まあ、口止めはされていないから言っちゃいましょ。鬼頭さんは、あなたがどんなものが好きなのかとか、良く飲んでいる飲み物は?とか、食べ物は?とか、趣味は?とか、女の子みたいなことをよく訊いてくるの」


いっ、ええええーーっ!?


叫び声も出せないほどの驚愕だった。


あの課長が、三年間いつも厳しい、冷徹な課長が、私のそんなプロフィールみたいなことを藤本さんに訊いている⁈


しかもまるで、好きな相手のことを知りたくて、その相手のことを良く知っている友達に色々と情報を聞き出す、恋する女の子みたいな質問方法……!



「まま、ま、マジですか……」


「マジです。いつからかって言うと、実は結構前からなの。いつの時か、私があなたと仲良くしてるのを見て、私にあなたのことを訊こうと思って声をかけたんだって前、言っていたわ。ふふっ、大勢の社員の中で、あなたと一番付き合いのあるのが私だって分かるって事は、その分あなたのこと、普段からよく見てるって証拠よね」