嬉しそうじゃないけれど、そうあだ名をつけられることに慣れたらしいやっくんは、初めは呼ぶなとか言っていたけど、今は何も言わない。



やっくんは、いつも注文する、チョコレートたっぷりのホットのカフェモカを一口飲んでから、神妙な面持ちでカップをテーブルに置いた。



「あのさ、俺と別れてくれない?」


躊躇なく言い放ったやっくんの言葉が、脳に通達するのに時間がかかった。


おれと、わかれてくれない?


おれと、わかれてくれない? わかれてくれない?


別れてくれない? 別れて、別れて?


「は…?」


私は気の抜けた素っ頓狂な声で、それしか言えなかった。


店内に流れる陽気なフレンチポップスも、周りにいる客の話し声も、全ての音が遠のいていって、途端に聞こえなくなる。


まるで、私とやっくんだけ、その場に隔離されたような、聴こえるはずの音全てが聞こえない。


頭が真っ白になっていって、瞬き一つする機能も言葉を発する機能も失われている。



「だから、別れてくれって、言ったんだよ」