藤本さんは、心配そうに私を見つめた。
美人にこうして真っ直ぐと見つめられると、自分は女だけどドキドキするな……。
て、せっかく藤本さんが心配してくれているのに、胸高鳴らせている場合じゃなかった。
「……そう、ですか?あんまり、変わらないと思うんですけど……。大丈夫ですよ」
鋭い藤本さんに見透かされないように、努めて明るく応える。
今日は何故か、一週間の間より、昨日より幾らか気分が軽かった。
普通に空腹も感じるようになっていた。
きっと、課長のおかげだろう。
心配してくれて、昨日家に連れて行って、私に温かいおじやを食べさせてくれて……。
そしていつまでも失敗する私に、仕事に集中しろというように喝を入れて、やる気を出させた。
飴と鞭の使い方が、上手だよね……。
「……そう。でも、具合が悪かったりしたら早退するのよ?何か悩みがあるなら、ちゃんと言うのよ?誰でもいいから。もちろん、私にでもいいのよ」
心配性な藤本さんは、にっこりと微笑んでそう言った。
「ありがとうございます……」
じんわりと温かさを感じながら、礼を言う。
「頼っていいのよ、遠慮せずに。では、食べましょうか。いただきます」
「いただきます」
藤本さんと一緒に、約一週間ぶりの社食の唐揚げに舌鼓を打つ。
「あ、そうそう、そういえば」
と、私はある事を思い出して、そう切り出した。
豆腐ハンバーグを口に運ぶ藤本さんが、数回瞬きをした。
「あの、秘書課に『龍御寺』っていう男の人、いません?」
「龍御寺……」
藤本さんは、何かはっとしたように目を見開いている。
ん?どうしたんだろう?
もしかして、やっぱり藤本さんは、龍御寺さんのことを知っているのかな?
「あの……、藤本さん?」
「っ、あっ、うん、龍御寺さん、ね。彼は、ウチの部署の人ではないわ」
龍御寺さんの名前を出したらちょっとだけ、藤本さんの様子がおかしかったんだけど、気のせいだよね?
「へえ、そうなんですか⁈じゃあ、一体どこの……?」
「そもそも、ウチの会社の人ではないのよ、『龍御寺 俊哉』さんは。でもどうして、佐藤さんが彼のことを知っているの?」
「あ、それは、今日、龍御寺さんがウチに来たんです。なんだか、社長が呼んでるって、課長に言いに来て、それで」
「ああ、あの時ね。社長室に龍御寺さんと鬼頭営業課長が一緒に来たわね。でも、二人が社長と何の話をしているのか、それから社長とあの二人の間にどういう接点があるのか、私にもよく分からないのよねえ……」
そう言って、藤本さんは赤だしの味噌汁を飲んだ。
「そうなんですか……。じゃあ、龍御寺さんが何者なのかも分からないんですか?ウチの課長とどういう関係なのかも?」
そう訊くと、藤本さんは無言で頷いた。
「たまに、……いや最近は良く、社長室に二人で来るのだけど、一体何をしているのか、謎だって、秘書課でもそれで持ちきりよ。しかもあの二人、結構目立つ顔してるでしょ?」
私は、白いご飯を口に運んで、咀嚼して飲み込んでから頷いた。
「ええ。とても目立つ顔をしていますよね。遠目からでも分かるくらい」
「そう。日本人かって思うくらい、龍御寺さんは彫りが深いし、鬼頭さんはクールな感じの爽やかイケメンだし。そりゃあ、イケメンが二つ並んで歩いていたら、女子が夢中になるのも当然だけど、あの二人が女子しかいないウチに来ると、その間全く秘書課の仕事が捗らないのよね。女子全員、イケメンプラス男珍しさに、夢中になっちゃって。あの二人に」
「うわぁ……。そこまでなんですか。仕事が捗らなくなるまで……。うわぁ…」
困り顔の藤本さんに、本気で同情する。
